村上春樹『羊をめぐる冒険』ゆかりの地をめぐる — 北海道・美深と士別
村上春樹『羊をめぐる冒険』の舞台とされる北海道の町を辿る。架空の「十二滝町」のモデルとされる人里離れた集落から、村上自身が取材した羊飼育の町・士別まで。
『羊をめぐる冒険』は、村上春樹が1982年に発表した小説です。奇妙で分類しがたい、ノワール的な筋書きと静かな幻想性が入り混じった、村上作品らしいスタイルが初めて確立された一冊とされています。名前を明かされない主人公は、背中に星形の模様がある、人を操る力を持った羊の捜索に巻き込まれていきます。羊が最後に目撃されたのは、北海道の山中、作中で「十二滝町」と呼ばれる村でした。
十二滝町は架空の地名です。ですが村上春樹は、実際の取材旅行をもとにこの町を作り上げています。1981年10月、村上は北海道各地を巡り、実際の羊飼育について調べました。本物の生産者に話を聞き、地元自治体の記録も確認したうえで、この小説を書き上げています。
立ち寄り先1: 美深町・仁宇布 — 十二滝町のモデルとされる集落
十二滝町として公式に確定している場所はありません。ですが、北海道北部・美深町の外れにある集落、仁宇布(にうぷ)が、最も有力な候補として繰り返し挙げられています。小説の中で、十二滝町は札幌から車で260km離れた場所とされています。これは仁宇布までの実際の距離とほぼ一致します。作中には、採算が取れないことで有名なローカル線が町を通っている、という描写もあります。これは、美深町のかつての鉄道路線「美幸線」を思わせます。美幸線は1985年に廃止されるまで、日本の国鉄路線の中でも最も採算の取れない路線として知られていました。
この地域には実際に「仁宇布の冷水・十六滝」と呼ばれる名所もあります。真夏でも水温が6度前後を保つ冷たい湧き水が生み出す、16の滝の連なりです。小説の「十二滝」という名前の由来ではないかとも言われています。
かつて仁宇布駅があった場所には、現在「トロッコ王国美深」というレールバイク公園があります。廃線跡の一部が保存されており、訪れた人は小さなトロッコをこいで森の中を走ることができます。
- アクセス: JR美深駅から車で約30分です。予約制のコミュニティバスも運行していますが、車の方がはるかに現実的です。
- 知っておきたいこと: 十六滝と冷たい湧き水は、トロッコ公園から車で約10分の場所にあります。公園の近くには小さなチーズ工房があり、実際に羊を放牧しています。小説とのゆかりが確認されているわけではありませんが、テーマにふさわしい偶然です。
立ち寄り先2: 士別 — 村上春樹が実際に取材した町
村上春樹は、北海道の羊飼育を何もないところから想像だけで書いたわけではありません。実際に足を運んで取材しています。1981年10月の取材旅行で村上が訪れたのが士別市です。士別は古くから羊飼育が盛んな街で、村上はここで実際の生産者に話を聞き、市の記録も確認したうえで、小説を書き上げました。
士別は今も、その土地柄を前面に打ち出しています。「羊と雲の丘」は、丘陵地にある観光牧場です。世界各地から集められた珍しい品種の羊を、周囲の田園風景を見渡しながら間近に見ることができます。
- アクセス: JR士別駅から車で約15分です。牧場まで直接向かう公共交通機関はありません。
- 知っておきたいこと: 訪問には、羊たちが冬の間の屋内飼育ではなく丘の放牧地に出ている、晩春から秋にかけての時期が最適です。
旅の実用メモ
- 訪問に適した時期: 晩春から初秋にかけてです。北海道の山道も、士別の牧草地も、積雪期を避けた時期が最も快適です。
- 拠点にする街: 旭川が最も実用的な拠点です。美深・士別のどちらへも、車で2時間以内で行くことができます。
- 言語について: どちらも小さな地方の町です。主要な観光施設以外は、基本的に日本語のみの案内になります。
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