夏目漱石『こころ』ゆかりの地をめぐる — 鎌倉と東京
『こころ』の語り手が「先生」と出会う実在の海岸から、物語の最も悲しい場面の舞台となる東京の墓地まで。そこは、夏目漱石自身が眠る場所でもある。
『こころ』(1914年)は、日本国内では漱石の代表作として最もよく知られており、高校の国語で最初に扱われる作品であることも少なくありません。若い語り手が、「先生」とだけ呼ぶ年上の男性と親しくなり、やがて先生が若い頃の裏切りから抱え続けてきた罪の意識を、少しずつ知っていく物語です。物語は鎌倉の海岸から始まり、東京のある墓の前で幕を閉じます。このシリーズの中でも珍しく、この二つの実在の場所のうち一つは、漱石自身も最終的にたどり着いた場所でもあります。
立ち寄り先1: 由比ヶ浜(鎌倉) — 語り手が先生と出会う場所
物語は、夏休みで鎌倉の由比ヶ浜で泳いでいる語り手の場面から始まります。そこで彼は、人混みから離れて立つ「先生」の姿に初めて気づきます。これは、この海岸についての最も一般的で、頻繁に引用される実在地の特定です。日本の研究でも、由比ヶ浜と直接名指しされることが多くなっています。ただし、本文自体には海岸の名前が明示されていないため、隣接する材木座海岸を挙げる、少数の地元説もあります。いずれにせよ、訪れるべきはこの一帯の海岸線です。二つの浜はすぐ隣り合っています。
- アクセス: 江ノ島電鉄(江ノ電)で由比ヶ浜駅下車、砂浜まで徒歩約4〜5分です。鎌倉駅からは江ノ電で一駅(約5分)、または徒歩で20〜25分です。
- 知っておきたいこと: 鎌倉はそれ自体、東京から人気の日帰り旅行先です。この立ち寄り先だけを目的にするのではなく、街で知られる寺社めぐりとあわせて訪れるとよいでしょう。
立ち寄り先2: 雑司ヶ谷霊園(東京) — 小説と漱石の実人生が交わる場所
物語の後半、先生は東京・雑司ヶ谷にある墓地に、亡くなった友人Kの墓参りに毎月訪れます。この地名は、本文中に直接記されています。この立ち寄り先が特別なのは、夏目漱石自身も実際にここに眠っているという点です。1種14号にある、ひときわ背の高い、肘掛け椅子のような形の墓が、漱石の墓です。
文学研究の中には、小説に描かれた墓参りの場面が、漱石自身の日記の記述とほぼ一致することを指摘するものもあります。漱石は、この小説を書くより何年も前に、幼い娘の墓参りのために同じ墓地を訪れており、その時の日記が下敷きになっているというのです。実際の悲しみが、ほとんどそのままフィクションに織り込まれています。
- アクセス: 都電荒川線(東京さくらトラム)の都電雑司ヶ谷停留所が最寄りで、徒歩約2分です。雑司ヶ谷駅(副都心線、1番出口)からは徒歩約8分、東池袋駅(有楽町線)からは約7分です。
- 知っておきたいこと: 霊園は広く静かで、歩いてみると小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)や小説家・泉鏡花など、ほかにも著名な墓がいくつもあります。入口付近にある園内地図を見れば、漱石の墓は迷わず見つけられます。
立ち寄り先3: 小石川(東京) — 先生が暮らしたとされる界隈
小説の中で、先生が暮らす界隈の地名は明かされません。ですが、本文に描かれる散歩の道筋——伝通院の前を通り、植物園の縁を回り、富坂へ向かう——から、読者たちはその家を、現在の文京区にあたる小石川に位置づけてきました。作中に登場する植物園は、実在し、一般にも公開されています。東京大学が管理する「小石川植物園」で、文学的なつながりを抜きにしても、散策にふさわしい心地よい場所です。
- アクセス: 茗荷谷駅(丸ノ内線)または白山駅(都営三田線)から徒歩約10分です。
- 知っておきたいこと: この立ち寄り先は、本文に明記された場所ではなく、あくまで推測に基づくものです。先生の東京をもっと歩いてみたい読者向けのおまけとして考えるとよいでしょう。必見スポットというわけではありません。
旅の実用メモ
- 訪問に適した時期: 鎌倉は、海水浴でにぎわう夏の週末は特に混雑します。平日の訪問か、寺社や雑司ヶ谷を中心にめぐるオフシーズンの訪問なら、落ち着いて過ごせます。
- 拠点にする街: 東京を拠点にし、鎌倉へは日帰りがおすすめです。JR横須賀線なら乗り換えなしで、約55〜60分で行けます。本ガイドで紹介したどの駅でも、Suica・PASMOなど通常のICカードが使えます。
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